「コペポーダ」海洋で最も繁栄しているプランクトン(その2)

前回は我々、人間との関わり、生態系から見たコペポーダについて紹介した。今回はコペポーダ自身について紹介しようと思う。

 

コペポーダは前回に言ったとおり、節足動物門、顎脚綱、カイアシ亜綱に属するものをコペポーダと呼ぶ。一般には、コペポーダの一部を「ケンミジンコ」や「ヒゲナガミジンコ」、形態から「橈脚(カイアシ)類」とも呼ばれる。10,000mの深海のほか、標高5,000mの陸水、58℃の温泉にもいる。これは動物の中で最も広範囲で生息していることになる。また、プランクトンの中では比較的に寿命が長く1年程である。(通常のプランクトンは1ヶ月~数ヶ月)

次から、項目ごとにコペポーダを紹介しようと思う。

 

 

ⅰ形態

 頭頂部から順に、第一触覚、第二触覚、大顎、第一小顎、第二小顎、顎脚があり後方に、第一胸脚~第五または第六胸脚がある。

f:id:coccoli:20141005233709j:plain(イラスト:参考資料をもとに作成)

 胸脚は主に遊泳のために利用される。

f:id:coccoli:20141005235004j:plain (写真:私がSEMで撮影した)

 雌雄は触覚の形態的な違いから判断されることが多い。

幼体の時は、「ノープリウス幼生」という甲殻類のあるグループで見られる形態をする。ここから脱皮を繰り返して数時間、あるいは数日で成体のコペポダイトという形態になる。

f:id:coccoli:20141006011845j:plain(写真:私が撮影したノープリウス幼生)

 生殖の際、雌の体表にある糖タンパク質やフェロモンで雄は雌と判断していると考えられており、未成熟なメスを感知して,交尾可能になるまで待つ行動(交尾前ガード)が見られる。

  

ⅱ摂餌

  第二触覚と上顎で水流を起こし、餌粒子を感知して能動的に摂餌すると考えられている。水ごと餌を飲み込むが、水のみを絞り出して摂餌する「懸濁物摂食法 (suspension feeding)」という方法を利用していると解明された。

 コペポーダは珪藻や渦鞭毛藻などの植物プランクトン繊毛虫などの微小動物プランクトンを摂餌する。また、嗜好性があり、不向きの餌を摂餌すると吐き出す行動が確認されている。珪藻類を摂餌すると産卵時、異形のコペポーダが生まれることがあると分かっている。

 

ⅲ休眠

  生物一般には、食糧が少ない冬季に活動をほぼ停止する「冬眠」をおこなう。これが、コペポーダのあるグループの場合には夏季に冬眠の状態になる休眠期というものがある。これはコペポーダが長い寿命をもつ要因のひとつと思われる。

 どうやって休眠をしているのか。春になると植物プランクトンが大増殖する「春季植物プランクトンブルーム(spring bloom)」というものが毎年のようにある。コペポーダはこの時に植物プランクトンを多く摂餌して、食べたエネルギーを油球(ゆきゅう:Oilsac)に変換し、蓄積する機構がある。これは前回の記事でも述べた。さらに、油球を十分に貯めたら2ヶ月で500mという速度で、500m~2000m深海へ潜り、そこで半年ほど休眠するとされている。2ヶ月で500mとは、ヒトに例えると375万kmに相当する。(コペポーダを0.2mm、ヒトを150cmとする)これは地球から月までの距離とほぼ同じということになり、速度は250km/hとなる。

 なぜ休眠期があるのか。色々な考え方があるが、夏になると植物プランクトンの上位の食物連鎖に位置する動物活発になるし、魚類も活発になる。この中をコペポーダが活動していると摂餌されてしまう可能性がある。そのため、夏季に休眠という習慣があると考えられている。

 

多様性

 最近は「生物多様性」 という言葉の認知について73.8%が知らないと答えたと最近の記事で見た。少し説明するが、「生物多様性」とは生態系内に多様な種の生物がいるということである。コペポーダの場合、カンブリア紀には多様な発展がなされていたと考えられており、現在では11目、12,000種類ある。これは、分類学上では非常に大きいグループとなる。今になっても新種のコペポーダは報告されている。(下の写真)

f:id:coccoli:20141006094341j:plain (写真:National Geographic

 なぜ、こんなにコペポーダには多くの種があるのか。さまざまな見解があるが、ここではそのひとつを紹介する。前記で述べたように、コペポーダには休眠期というものがある。これは種ごとに休眠の時期はことなるし、休眠がない種もある。これによって摂餌するときに競争的にならなくてするし、嗜好性もあり、種でことなる。そのため現在では多様な種があると考えられている。しかし、この現象を説明、断言できるまでの根拠はなく、さらにコペポーダ以外の、プランクトンも高い多様性を持っている。(この同環境に住むプランクトンがある種が独占せず、高い多様性をもつことを「The paradox of the plankton」とも呼ばれる)

 

 1910年代からコペポーダの研究は進められてきて、当初は食性に関する研究だった。それから現在では生態学分子生物学のように範囲限られた専門的な研究が進んできている。去年にはコペポーダに由来する発光物質(ルシフェラーゼ)の研究が行われてきて、コペポーダは応用的に実用的に研究がされている。もしかしたら、人に直接利益を与えないはずのコペポーダが開発面で実用化されて、近い将来、コペポーダの名は世に知り渡るのかもしれない。

 

 

参考

小針統 鹿児島大学水産学部資源育成科学講座

滋賀県立大学環境科学部 年報第8号

嶋永元裕 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター市民公開講座

長沢 和也,2005,『カイアシ類学入門 水中の小さな巨人たちの世界』東海大学出版会

大塚攻・西田周平,1997,『海産浮遊性カイアシ類(甲殻類)の食性再考』海の研究Vol6,No5,299-320

小針統,2009,『北太平洋亜寒帯域におけるカイアシ類の成長過程に関する研究』

 経産(2014.9.20 22:39)『生物多様性の認知度低下 「聞いたことない」半…』

National Geographic 『海洋生物のセンサス:カイアシ類の新種』

東京大学農学部・大学院農学生命科学研究科大気海洋研究所浮遊生物分野

津田 敦,2013『亜寒帯北太平洋における動物プランクトンを中心とした低次生態系の動態に関する研究』

 

カイアシ類学入門―水中の小さな巨人たちの世界

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  • 作者: 長沢和也
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  • 発売日: 2005/08
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