Copepodologia(コペポドロジア)

カイアシ類学のメモ書き

光合成によって食べず生きるウミウシ

 ウミウシは軟体動物であり、タコやイカに近縁な生物である。色彩が豊かな体色や擬態するために目立たない体色の種、様々で体長も数mm~数十cmまである。最近ではダイバーに人気であり、テレビでも度々紹介される。

f:id:coccoli:20150214162626j:plainナショナルジオグラフィックよりウミウシ

 そのようなウミウシの中で未だに、ほとんど知られていない(研究がされていない)機能を持つものがいる。それが「光合成をする」ウミウシである。

 

光合成とは

 一般的に植物で見られる機構(複雑な生化学で成り立つ機能のこと)で、細胞内にあるオルガネラ(細胞小器官)のうち、葉緑体光合成がおこなわれる。読み方は「こうごうせい」が一般で、一部では「ひかり-ごうせい」だが、現在では前者が普通である。光合成のしくみについて、多くは「光が当たることで酸素をつくる」と習ったと思うが、実は違う。正しくは「光を浴びることで二酸化炭素に水を合成させてグルコース(栄養)をつくり、水からの副産物として酸素が排出される」である。光合成で重要となるところは「光によって酸素をつくる」ではなく「光によって非栄養から栄養をつくる」ことである。現に、酸素を排出する光合成は酸素発生型光合成と呼び、他は酸素を排出しない酸素‘非’発生型光合成が多くある。まだ話したいことが多くあるが、本題からずれてしまうのでここまでにする。

 

光合成するウミウシは他生物から葉緑体を“盗む”

 光合成をするウミウシが持つ、光合成をおこなう葉緑体は、ウミウシのものではない。他生物からその葉緑体を得ており、この生物を摂餌するときに、葉緑体以外は消化し、葉緑体のみを保持している。この現象は1965年に、岡山大学の川口四郎らが岡山玉野臨海で採集したウミウシ葉緑体を保持していたことから発見された。他生物から葉緑体を盗んでいるようにみえることから、この現象は、ギリシャ語で「盗む」という意をもつ「klepto」から「クレプトクロロプラスト(盗葉緑体):kleptochloroplast」(特にウミウシのみで用いられるのは「クレプトプラスト:kleptoplast」である)と名付けられた。

 

クレプトクロロプラスト(盗葉緑体

 クレプトクロロプラストはウミウシに限られて起きることではない。実はこの現象は微小生物(正確には動物であるが、植物という意見もあるため、ここでは広義で表現する)で一般的に見られる。クレプトクロロプラストをもつ生物として、渦鞭毛藻、繊毛虫、有孔虫、有中心粒太陽虫、鞭毛虫などがいる。さらによく知られているあのミドリムシもクレプトクロロプラストによるものである。世間一般にミドリムシは植物と動物の中間という表現をされていたが、動物という見解が有力となってきている。

 驚いくことと思うのでミドリムシを少し取り上げるが、原始的なミドリムシ光合成をおこなわず一般的な動物と同様に活動をし、他生物から葉緑体を盗み、光合成をするようになった。さらに、現在のミドリムシがもつ葉緑体は二度、盗んだものであり、一度目は紅藻由来の葉緑体によって赤色に、二度目は緑藻由来の葉緑体によって緑色に体色を変え、光合成をしたという。これはミドリムシの遺伝子解析により裏付けられている。

f:id:coccoli:20150214174435j:plain東京大学よりミドリムシの進化)

 

光合成ウミウシのクレプトクロロプラスト

 予備知識(等)を述べたところで、本題に戻る。前述のとおり、ウミウシの数種類は藻類を摂餌し、藻類の葉緑体以外を消化し、葉緑体を得ている。さらに葉緑体光合成をおこなわせ、それによって生成された栄養をウミウシは利用している。光合成するウミウシの中ででよく研究がされているのはElysia chloroticaである。chloroplast(葉緑体)とchlorotica光合成ウミウシの一種の種小名)は似ているがchloroは緑という意なので両者は関係ないと思う(文献は見つからなかった)。写真を見ての通り、全身が緑である。

f:id:coccoli:20150215005233j:plain(参考文献よりElysia chlorotica

次からは、このElysia chloroticaの研究によって分かったウミウシのクレプトクロロプラストについて述べる。

 

藻類葉緑体ウミウシ体内へ取り込む

 E.chlorotica葉緑体を得るために摂餌する藻類はVaucheria litoreaである。ウミウシ全般に体内には中腸腺と呼ばれる腺状組織があり、胃で消化された食物を吸収する。V.litorea摂餌時、胃で消化がされるが、V.litoreaが所持している葉緑体は消化されなずに、中腸腺へ運ばれ、中腸腺の細胞内へ取り込まれると考えられている。しかし、不明な点が多く、実際にどうやって取り込んでいるかは分かっていない。宮本彩加の研究によると、ウミウシ葉緑体を取り込むと、その葉緑体に効率よく光合成をおこなわせるため、ウミウシは光に向かって移動する「走光性」がみられるという。

 

藻類細胞から単離された葉緑体の保持

 細胞内、オルガネラとしての葉緑体は、核と連携して物質のやりとりがおこなわれ、機能が落ちることがなく活動をすること(生きること)ができる。つまり、核と別にすると、葉緑体は機能が失われ失活して(死んで)しまう。実際に、葉緑体を単離すると短時間で失活してしまうことは確認されている。前述のとおり、ウミウシが藻類から葉緑体を得る時、核を含む葉緑体以外を消化して取り込む。これでは、葉緑体は核から必要な物質を取り入れることができなくなってしまい失活する(死ぬ)。しかし、光合成をおこなうウミウシ内にある葉緑体は取り入れてから9ヶ月(E.chloroticaで確認されたものは14ヶ月)保持していることが分かっている。ではなぜ、核と別になった葉緑体が失活することなく機能を保つことができるのか。2015年2月に発表されたJulie A. Schwartzらの最新の論文によると、E.chloroticaの染色体に、摂餌した藻類が持つ遺伝子と酷似した部分を持つことが判明した。さらに、その遺伝子は藻類一般で見られる、葉緑体光合成を助ける機能をコードしていることが分かったのである。つまり、ウミウシ内において、葉緑体は核があった状態に近い環境内にあることが分かったのだ。ゆえに、葉緑体は藻類細胞から単離されても、ウミウシ内で保持する事ができるというわけなのである。さらに、藻類には、傷ついた葉緑体を修復し、機能を保つ遺伝子をもち、E.chloroticaはその遺伝子を持っているのである。E.chlorotica内にある葉緑体は、葉緑体の保持のみならず、修復をおこなっているということになる。前述のように、E.chloroticaにある葉緑体は14ヶ月の間、保持できたのは、この修復能をもつ藻類の遺伝子を保持していたからだと考えられる。(これらの遺伝子は子孫へ遺伝するが葉緑体は遺伝しないため、子孫は新たにクレプトクロロプラストをおこなう必要がある。)

 ここで、疑問に思う。なぜ、E.chloroticaV.litoreaがもつ遺伝子を持っているのか。これは、生物で見られる現象で、「水平伝播:Horizontal gene transfer」と呼ばれている。この現象は、何らかの要因で他生物の遺伝子を取り込むというものである。有名なものでレトロウイルスがある。レトロウイルスは逆転写という方法で、レトロウイルスが持つ遺伝子を他生物のDNAに取り込ませて感染するというものである。E.chloroticaの場合は、V.litoreaを摂餌したときに何らかによってV.litoreaの遺伝子がE.chloroticaの染色体へ取り込まれたと考えられる。

 

ウミウシが盗むものは葉緑体だけでない「盗刺胞」

  ウミウシは外敵から身を守るための防御能が備わっている。あるウミウシは毒を持つ生物を摂餌し、毒を蓄えるというものもいる。これはウミウシのみで見られることではなく、有名なものでフグがいる。フグは猛毒を持っているが、その毒はプランクトンから獲得したものである。

 ウミウシの中で、ミノウミウシ類は刺胞細胞(サンゴ、イソギンチャク、ヒドロ虫、クラゲなど)から針および毒液をもつ刺胞を蓄える機能を持っている。刺胞はカプセルになっており、内部に毒液をもっている。このカプセルに刺激を受けると、カプセル内にある針糸が飛び出し、外的に向けて毒液が注入される仕組みになっている。このとき、刺された方はひどい痛みに襲われ、死ぬことがある。

f:id:coccoli:20150215115229j:plain京都大学より刺胞の構造)

 ミノウミウシ類はヒドロ虫を好んで摂餌し、ヒドロ虫がもっている刺胞を蓄えることができる。ミノウミウシには刺胞嚢と呼ばれる器官をもっている。そこで刺胞がたくわえられるという仕組みになっている。しかし、どうして刺胞に刺激を与えていることなのだが、ミノウミウシ類の胃内で半数が発射する刺胞を除き、刺胞が発射せず、ミノウミウシ類へ取り込まれるのか。この機構は分かっていないが、多くの説がある。摂餌時に特殊な粘液によって刺胞は包まれ発射しない。クマノミがイソギンチャク内で過ごしているように共生の関係としてある。未熟刺胞を蓄えている(ミノウミウシ類が刺胞を持っていることを発見した当時、ウミウシが未熟の刺胞をもっていたことから、その刺胞がウミウシが産生したものだと間違えられたことがあった)。といったものがある。また、最近の研究によると、多くの刺胞を取り込む際に、より強力な刺胞を選別していることが分かり、胃内で発射された刺胞はその選別により外されたものではないかと私は考えている。

 

 

 

参考

山本義治,2008「盗葉緑体により光合成する嚢舌目ウミウシ」光合成研究18(2),42-45

山本義治ら,2008「光合成をするウミウシ」,ウミウシ通信60,10-11

山口晴代ら,2008「クレプトクロロプラストを持つ原生生物、特に渦鞭毛藻について」,原生動物学雑誌41(1),9-13

宮本彩加ら,2013「盗葉緑体が光合成ウミウシの走光性に与える影響」日本生態学会60

平野義明,2005「ウミウシ学」東海大学出版会,67-75

Julie A. Schwartz. et al."Sea slug has taken genes from algae it eats, allowing it to photosynthesize like a plant"

丸山真一朗,野崎久義「むかしむかし、ミドリムシは紅かった?」東京大学大学院理学系研究科理学部

 

ウミウシ学―海の宝石、その謎を探る

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