Copepodologia(コペポドロジア)

カイアシ類学のメモ書き

口、肛門、消化器官もない動物「ハオリムシ」

 ハオリムシは水深100m以深の熱水噴出孔付近海底に生息する環形動物(ミミズ、ゴカイなど)に分類される。しかし、どのように環形動物系統内で進化してきたのか不明であるため、独立して有髭(ゆうしゅ)動物ともいわれる。最近になり、幼生期は環形動物に特徴的なトロコフォア幼生として浮遊しており、消化管は存在することから環形動物に分類されるのが有力になってきている。大抵は群集で生息しており、硬い管(棲管)の中におり、管の先から赤い鰓が露出している。

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 面白いことに、ハオリムシの体構造は細長い胴体と大きな鰓の他、機能的な器官を持っていないということである。つまり、動物なら持っているであろう口や肛門、消化器官を持ってないのだ。それでは、どうやって栄養を補給するのか。ここで重要となってくるのは「血液」である。

 

巨大ヘモグロビン

 ヘモグロビンは血液の赤い色素の素であり、酸素を運搬することは知っていると思う。青い血はご存知だろうか。学校の課程で学ぶところと学ばないところがあるということから簡単に説明する。ヘモグロビンは金属の鉄を含むタンパク質であり、酸素が結合すると酸化鉄となり、特有の赤色を呈する。静脈の血液が黒っぽいのは鉄に結合していた酸素が解離し、鉄が還元したためである。そして、ヘモシアニン。ヘモシアニンは、ヘモグロビンと異なる金属、銅を含んでいる。酸素との初親和性(酸素と結合できる最低酸素濃度)で両者を比べると、銅のほうが高い(しかし、酸素貯蔵量は少ない)。すなわち、酸素濃度が低い場所では、酸素が確実に結合する点でヘモシアニンが有利であることになる。説明したところで本題に戻る。

 ハオリムシは、環形動物で少数派のヘモグロビンを持っている。さらに、このヘモグロビンの大きさは12nmと、ヒトヘモグロビンの6nmより2倍大きい(間違えやすいが、赤血球の大きさではない)。このことから巨大ヘモグロビンともいわれる。これには多少の諸説があるが、酸素濃度が低い深海でも、機能が失われないように巨大化したといわれる。

 

酸素の代わりに硫化物で呼吸をする

 ハオリムシがもつ、巨大ヘモグロビンは酸素のみを運搬するのではない。硫化物も運搬することが知られている。これは、巨大ヘモグロビン構造内にあるシステイン残基に硫黄が結合しやすいことが多数の実験で証明されている。さらに、システイン残基の周囲にはフェニルアラニンが多くあり、硫黄の結合を支持しているといわれている。

 前述のとおり、ハオリムシは熱水噴出孔付近に生息する。熱水噴出孔では、特に硫化水素などの硫化物が富んでおり、ハオリムシはこの硫化物を利用しているのである。一般の生物は、硫化物を利用できず有毒である。では、ハオリムシはどのようにして硫化物を利用しているのか。

 

ハオリムシ体内に共生する化学合成細菌

 ハオリムシの体内、栄養体(別名:トロフォソーム)と呼ばれるところに多くの化学合成細菌が存在し、巨大ヘモグロビンが運搬した硫化物やメタンなどを利用してエネルギーを得ていることが知られている。この栄養体はハオリムシ全体の40~60%を占めており、栄養体内には高密度(1億~10億菌体/g)の化学合成細菌が存在している。しかし、化学合成細菌はどのようにして体内へ取り込まれたのかは分かっていない。考えられることでは、ハオリムシが持つ化学合成細菌は堆積物中に含む細菌と酷似しているため、周囲環境中から獲得しているという可能性がある。

 

 

 

参考

金沢大学理工学 自然科学研究科動物・微生物生理化学研究室「有鬚(ゆうしゅ)動物巨大ヘモグロビンの構造生物学」

東京大学大気海洋研究所底生生物分野「ハオリムシのページ」

酒井宏水ら「ヘモグロビンを小胞体に内包することによりガス透過性細管内を流動するときNO-,CO-結合,O2-放出が遅延される」日本血液代替物学会,2011

木村浩之ら「深海生物ハオリムシの体内と体外の微生物相」JAMSTEC J.Deep Sea Res,15,1999

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