ヘビの牙をもつコペポーダ(プランクトン)

 「コペポーダ」とは甲殻類の微小動物で別名「カイアシ類」である。体長は1mm~10mm程度で海洋を浮遊(プランクトン)している種類が多い。他には底生性(ベントス)や寄生性がおり、生息域は陸水や一時的な水たまりまでにも至る。コペポーダの分類は、数年前は10目だったが、現在は見直され、11目に追加された。コペポーダは以前にも紹介をしている。ぜひ参照されたい(2014年10月2日の記事)。

 

コペポーダの進化

  コペポーダ先祖は沿岸底生性であったが、ここから浮遊種が派生、そこから寄生種、さらに寄生種のなかから二次的に浮遊種が派生し現在に至っている。このような多様性かは中生代白亜紀には既におこなわれており、カンブリア紀に爆発的な種分化がされたと考えられている。そして今回の主人公、コペポーダ先祖から浮遊種が派生し、現在も海洋を支配しているとも言ってもいいほど卓越しているカラヌス目のうち、Heterorhabdus(ヘテロラブドゥス属)が著しい進化を遂げた。以下、Heterorhabdusを述べる。

f:id:coccoli:20151012003326j:plainWoRMSよりHeterorhabdus)

 

 

ヘビの牙を持つHeterorhabdus

 HeterorhabdusはHeterorhabdidae(ヘテロラブドゥス科)に属し、この科では深海性が一般である。また、粒子食から肉食へ食性変化が起きた。これにより口器および摂食に関与する付属肢の構造が変形し、肉食に適した形態になった。この科の中でとくにHeterorhabdusは口器が大きく変化をし、大きな歯を持つようになった。さらに驚くことは、この歯はオパールにより頑丈に硬化されており、歯の内部が管になっている。(下図;大塚攻 bより改変)また、口唇と歯の間で分泌液を重鎮するシステムを持ちあわせており、この分泌液を歯の管に送り込む仕組みになっている。この分泌液は麻酔あるいは毒性をもつもので、餌動物に歯とともに打ち込み、弱らせて摂食する。このような進化をしたのは餌が少ない環境において確実に餌動物を捕獲し、摂食するためだと考えられている。

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 驚く進化をしたのは牙を持つようになったことだけではない。生息場所も変化したのである。前述したとおり、ヘテロラブドゥス科は深海性である。これは体長が10mmある種も含まれており、大きいため魚類などから捕食されやすい。したがって捕食圧を避けるため深海性となったと考えられている。しかし、Heterorhabdusは1/3以下までに小型化し、表層性となった。小型化したため捕食圧を避けられ、餌が多い表層へ移動したと考えられる。これはHeterorhabdusにとっては有意であり、捕獲に特化した口器と餌が多い表層かつ小型化、これは大繁栄の一歩手前とも言っても良い。現に生息密度が他のコペポーダと比べて圧倒的に高い。これは、多種の競争に打ち勝っていることを意味している。このような高度な進化は、精巧な口器を得たことにより盛んに種分化したか、おこした進化における「変異あるいは繁栄段階(※)」に達したために起きたと考えられる。

 

※分布段階には、「発生段階」「変異段階」「繁栄段階」「衰退段階」の4段階に分けることができ、十分に個体が分布されるようになったのが、「変異あるいは繁栄段階」である(西村三郎 1990)。

 

  

参考

大塚攻(1997,a)「カイアシ類の食性と進化」日本プランクトン学会報 44(1), 44-46

大塚攻、西田周平(1997,b)「海産浮遊性カイアシ類(甲殻類)の食性再考」海の研究 6(5), 299-320

大塚攻「カイアシ類・水平進化という戦略―海洋生態系を支える微小生物の世界(NHKブックス)」2006年 日本放送出版協会

西村三郎(1990)「日本海の成立―生物地理学からのアプローチ」築地書館

 

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