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coccoli’s blog

理科とくに生物に関する記事を書いてます。

近年注目されている食物連鎖ともうひとつの存在「Microbial loop」

 Microbial loopは近年に、その存在が明らかになり、トレンドの分野でもある。和名では「微生物環」や「微生物ループ」とも言われる。他の言い方には、Microbial loopと”一般的な”食物連鎖と関連付けて「微生物食物連鎖」とも言われることもある(この場合、”一般的な”食物連鎖は「採植食物連鎖」とよばれる)。

 このMicrobial loopは海洋における食うー食われる(捕食-被食)の関係のひとつであり、その名の通り、細菌や超微小動物プランクトンなどの微生物間で成り立つものである。なぜ、Microbial loopは食物連鎖からほぼ隔離された状態になるかは、Microbial loopを構成する生物はとくに微小で、動物プランクトンが採餌できないからである。

 ここで、おさらいする。「食物連鎖」とは植物プランクトンを起点として、動物プランクトン、次いで小型魚類、大型魚類へ捕食されることで成り立つ栄養伝達経路のことである。つまり、光合成より作られた栄養が、動物プランクトン、魚類といった高次の生物へ受け渡されるということであり、植物プランクトンなしでは、これら高次生物は生きていけないということである。植物プランクトンの存在の重要さはお分かりいただけると思う。これに対し、この食物連鎖とは別の栄養伝達経路「Microbial loop」がある。Microbial loopは細菌やピコ植物プランクトン「ピコ=1/1000000 mm」が起点となって、マイクロ動物プランクトン(主にHNF;従属栄養性超微小渦鞭毛藻類)に捕食され、順次、食物連鎖へ合流する経路である(図1)。この狭義的なMicrobial loopのみでは、栄養伝達経路全体を説明できないため、Microbial loopにウィルスや超微細藻類、マリンスノー上の微生物を加えた微生物食物網(Microbial food web)という言葉も使われる。

f:id:coccoli:20151105213754j:plain(図1.ピーターヘリング「深海の生物学」(訳)より)

 

 Microbial loopにおいて大きく寄与するピコプランクトンの一般的な種Synechococcus属は世界で10の26乗個体が存在する。生物量(バイオマス)では世界で高水準を持つコペポーダ(カイアシ類)でも10の18乗個体しかいないので、どの程度の多さか想像できると思う。言うまででもないが、人は10の11乗個体(人)である。そのようなピコプランクトンのおおさでもあれ、一次生産量の半分がピコプランクトンとくに細菌へ流れ行く。これは食物連鎖にとって多大な損失でもある。つまり、一次生産によってつくられた栄養の半分は食物連鎖へ流れゆくこともなく、ピコプランクトンによって再度、無機化されてしまうのだ。ここで、Microbial loopの構成のひとつ、超微小プランクトンのことHNF(従属栄養性超微小渦鞭毛藻類)が大いに活躍する。HNFは、サイズがとても小さいため、ピコプランクトンを摂食できるのだ。そして、ひと回りおおきい鞭毛虫類へ栄養伝達され、食物連鎖へいたる。

 最近、このMicrobial loopから食物連鎖へ栄養伝達するにおいてあるマイクロ動物プランクトンが注目されている。それは「尾虫類」である(これは、以前にも紹介した2015/10/26の記事)。尾虫類は自身が作ったハウスと呼ばれる小屋に入って、尾を使って小屋へ海水を吸い込む流れを起こし、小屋の中へ入った餌を摂食するという、特殊な採餌方法を利用している。この採餌には、フィルターをつかって微小なサイズの餌を摂食することが可能で、ピコプランクトンも採餌することが可能である。また、尾虫類はコペポーダ(カイアシ類)に次いで多く、沿岸域で度々、赤潮を起こす。したがって、Microbial loopから食物連鎖へ栄養伝達することが大いに可能であるのだ。実際に、細菌類の赤潮が発生した際に、その後、尾虫類の大量増殖が認められ、細菌類が激減したという記録がある。

 以上のように、海洋生態系ではMicrobial loopが重要視されてきており、Microbial loopが海洋生態学を決めていると言っても過言ではない状態である。しかし、Microbial loopの知見は少なく、これから研究が進むべき分野なのかもしれない。

 

参考

ピーター・ヘリング(2006)「深海の生物学」沖山宗雄(訳)東海大学出版会

中村泰男(1999)「従属栄養性渦鞭毛藻類、Oithona属カイアシ類、尾虫類:これまであまり注目されなかった捕食-被食関係が物質循環に果たす役割」日本プランクトン学会46(1), 70-77

 

深海の生物学

深海の生物学

  • 作者: ピーターヘリング,Peter Herring,沖山宗雄
  • 出版社/メーカー: 東海大学出版会
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 単行本
 

 

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