Copepodologia(コペポドロジア)

カイアシ類学のメモ書き

精巧な採餌機能をもつプランクトン尾虫類

 尾虫類と言われてもコペポーダに並んで知名度が低い生き物であるため聞いたことがないかもしれない。しかし、生態系では重要な位置にあり、バクテリア等のピコプランクトン(数ピコメートルのプランクトン)の有機物を魚類へ伝達する要であると考えられている。詳しく述べると、食物連鎖には大きく分けて2つの食物連鎖がある。ひとつは「採植食物連鎖(生食食物連鎖)」で、植物プランクトンを起点に、動物プランクトン、小型魚類、大型魚類へとつながる食物連鎖。もうひとつは「微生物食物連鎖(マイクロビアルループ;microbial loop)」で、一般に採植食物連鎖に合流しないバクテリア等の微生物間で成り立つ食物連鎖である。微生物食物連鎖が採植食物連鎖に合流しないというのは、動物プランクトンにとってピコプランクトンは小さすぎるため摂食が困難であるからである。したがって、両者は隔離された生態系と言える。

 しかし、尾虫類に至ってはピコプランクトンを摂食することが可能である。これは尾虫類がつくる包巣、「ハウス」と関係している。尾虫類について全般を述べてから、このハウスについて述べていこうと思う。

 

実は人と同じ脊索動物門に属する

 尾虫類は脊索動物門、尾索動物亜門、尾虫綱に属する。形態からオタマボヤとも言われる(図1;動物系統分類学<8下>より)。このオタマジャクシのような形態は尾索動物亜門の幼生であり、他の種類は、この幼生から成体の形態へ分化する。このことから、オタマボヤは幼生成熟と呼ばれる。実は、この幼生は魚や爬虫類、哺乳類などの脊椎動物亜門の形態に酷似しており、脊椎動物亜門は一種の幼生成熟ではないかと考えられている。しかし、その根拠は皆無であるため断言ができない状態である。

f:id:coccoli:20151025234317j:plain(図1)

 

体のつくりが非常に単純

 尾虫類の特徴とも言えるのが、体を構成する細胞数とゲノム遺伝子の単純さである。尾虫類は筋肉に細胞20個、脊索に20個、全身で50個程度の細胞しかない。これほどに少ない細胞でできた多細胞生物は珍しい。ちなみに、心臓も持つが、2個の細胞からできている。またゲノム遺伝子もである。普通の生物はゲノム遺伝子内に連続する同一の遺伝子(重複遺伝子)が並ぶが、尾虫類には存在せず、遺伝子間の距離も短くなっている。つまり、遺伝子実験において利用しやすい生物とも言える。

 

成長が極めて速い

 まず驚くところが、成長の速さである。20℃~28℃程度であれば2~10日で生殖が可能になる。普通のプランクトンは早くてせいぜい数週間で、数ヶ月以内が一般である。また、生殖後、卵は体を突き破って産卵されるため、寿命も2~10日である。体の大きさは、餌が豊富であれば1日で7倍に増え、最大20倍に増えた記録もある。そのため、生物量で言えば、海洋で2位である。好適環境であれば、急激に個体数を増やすことができ、尾虫類で構成された赤潮を発生することがある。

 

ハウス

 尾虫類は自身から分泌物からハウスをつくって、その中で生涯のほとんどを採餌しながらすごす習性がある。また、定期的にハウスを捨てて新しいハウスをつくり、1日に数回~数十回、ハウスの更新をする。この捨てたハウスはマリンスノーの主成分となり、他生物がハウスを食べることが度々ある。ハウスは捨てた時点で尾虫類の頭部にハウス原基があり、頭を上下に動かしながら大きくして、袋状になったところで瞬時に尾虫類が中に入る(図2;動物系統分類学<8下>より)。この更新過程は数十秒で完了する。

f:id:coccoli:20151026001905j:plain(図2)

 ハウスには海水から餌粒子を濾すフィルターが2つ存在し、ひとつは入水口にあるフィルターで、もつひとつはハウス内にある採餌フィルターである。前者はハウス内に摂食できない大きな粒子が入らないようにするもので、後者は海水から餌粒子を取り出すフィルターである。したがって、ハウス外へ出されるものは海水のみになっている(図3;動物系統分類学<8下>)。また、餌の選択性もあり、不適当な餌の場合、このフィルター-水路の流れを逆転し、ハウス外へ出す機能もある。この採餌にかかる水流は、尾虫類の尾の運動で置きており、摂食は頭部にある繊毛によって口までエサを運んでいる。

f:id:coccoli:20151026002804j:plain(図3)

 驚異的なことは、この濾水速度が1時間に数リットルに及ぶことである。尾虫類の体サイズ(数mm)で数リットルをろ過することはすごく、一般のプランクトンの数千倍に及ぶ。この驚異的採餌能のおかげで非常に速い成長速度を保つことができると考えられる。

 

 

 

参考文献

佐藤力(2008) 家に住むプランクトン-尾虫類の生態 うみうし通信 (60) 2-3

谷口旭 海洋プランクトン生態学 成山堂書店

半索動物・原作動物 動物系統分類学<8下> 内田享(編) 中山書店

 

動物系統分類学 (8 下)

動物系統分類学 (8 下)

  • 作者: 石川優
  • 出版社/メーカー: 中山書店
  • 発売日: 1986/11
  • メディア: 単行本
 

 

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