Copepodologia(コペポドロジア)

カイアシ類学のメモ書き

河川の生態系を支持する「河床間隙水域(hyporheic zone)」とは -間隙生態系とその多様性-

 河川という環境は河川水と河床成分によって変動するものと捉えられてきているが、河川水が浸透されている河床間隙水域(hyporheic zone)が重要は働きがあると近年分かってきている。また、河床間隙水域中には表流水と比べ物にならない多様性があり、河床間隙水域中の生物相のみならず、多くの生物の生態において河床間隙水域は重要な存在意義があると言われている。

 

河床間隙水域(hyporheic zone)とは

 河川の環境は大まかに流れのある表流水(surface water)と河床の深さ数十cm~1mの河床間隙水域(hyporheic zone)に分かれる(図1)。間隙(intertidal)とは粒状の堆積物で、積み重なる粒同士の間で生じる隙間のことを言う。河床間隙水域ではこの間隙が豊富にあるため、わずかながら間隙中に含まれる河川水の流れが生じている。そして表流水の流れによって、河床間隙水域と表流水の間で頻繁に河川水の出し入れが起きている。そのため、河床間隙水域中の微生物をはじめとする有機物や栄養塩類、溶存物資の行き来が盛んであり、その環境中の生物相の組成を変動させる要因になり得る(Boulton et al 1998)。

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図1.河床間隙水域(hyporheic zone)の位置

 

河床間隙水域の物質循環としての意義

 表流水中では生物が排便や死ぬなどとして、有機物が河床へ沈む。また流れてきた土壌や土砂も同様に沈む。河床間隙水域では、間隙が多く存在するため、ミクロな物質も効率よく補足する働きがある(Leichtfried 1991)。河床間隙水域では豊富なバクテリアが住んでおり(Chappuis 1942)、補足された物質を早い時間で分解する。したがって、河床間隙水域ではアンモニア化や硝化、脱窒といった有機物の分解が頻繁に起きている(Holmes et al. 1994、Holmes et al. 1996、Jones et al. 1995、Jones & Holmes 1996)。分解された物質は植物にとって有用なもので、光合成速度を加速させる(Boulton AJ et al 1998)。河床間隙水域から表流水へ流れでた物質は植物に利用され、食物連鎖へ受け渡され、迅速に物質循環が成り立つ。すなわち、河床へ沈降した有機物がそのまま留まることなく河床間隙水域で物質の分解、素早く物質が再利用されるという訳である。また、こうした循環によって水質浄化にもつながるという(Fiebig & Lock 1991)。

 

河床間隙水域の生物

 河床間隙水域の間隙空間には多様な生物が住んでおり、これらの生物のことを「hyporheic zone(河床間隙水域)」からちなんで「hyporheos(以下、河床間隙生物)」と呼ばれている(「-os」は生物という意味がある;Orghidan 1959)。河床間隙生物(hyporheos)には微小の甲殻類やゴカイ、ミジンコ、ダニ、昆虫の幼虫などが含まれ、1mmに満たないメイオファウナで構成される。

 メイオファウナ(meiofauna)とは肉眼では見えるか見えない位の大きさの動物相(ある場所の中に生息する全ての動物)のことで、0.031mm~1mmと定義されることがある(汎用される定義ではない)。これよりも小さい動物をマイクロファウナ(microfauna;鞭毛虫や繊毛虫)、さらに小さいものをナノファウナ(nanofauna;バクテリア)、ピコファウナ(picofauna;ウィルス)とよばれる(後2つは一般に使用される用語ではない)逆にメソファウナよりも大きいのをマクロファウナ(macrofauna;ヨコエビやゴカイ)と言う。マイクロとマクロは似た言葉だが、間違えないようにしてほしい。後述で「~ファウナ」という用語を使っていくので、ここで覚えていただきたい。

 河床間隙生物の特徴として、形態が小さく、細長くなるというものがある。例としてカイアシ類(カイアシ類とは 2014年10月2日の記事 )について言うと、触角は短くなり、小型化、遊泳肢は少なく強化、付属肢の単純化があげられる(Galasii et al 2009;図2)。また、卵数が少なくなり、大きくなるという特徴もある(Reid 2001)。河床間隙水域という間隙環境に適応した形態変化と言える。

 

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図2.カイアシ類における間隙性と浮遊性の形態差

 

河床間隙生物とバイオフィルムの関係

  バイオフィルム(biofilm;菌膜)とはバクテリアが物質を分解した時に作られるもので、台所のヌメリや歯垢バイオフィルムの一種である。バイオフィルム内ではバクテリアが大量に存在し、活動が活発になっている。いわばバイオフィルムバクテリアの巣窟である。河床間隙生物はバイオフィルムが重要な食料源だと考えられており(Bärlocher & Murdoch 1989、Boulton 1999)、バイオフィルムの量が多いと河床間隙生物の活性が高まるという研究例もある(Montagna 1995)。したがって、河床へ沈殿した生物の糞や死骸といった有機物(デトリタス;detritus;以下から記述)を河床間隙生物が食べているというわけではなく、デトリタスを分解するバクテリアから生じたバイオフィルムを河床間隙生物が食べているということになる。これはメイオファウナ以下の動物相で見られるもので、マクロファウナはバイオフィルムではなくデトリタスそのものを食べている。これらは共通してデトリタス食生物(腐食生物)と呼ばれるが(Leduc & Probert 2009)、その食性はメイオファウナとマクロファウナで異なる。

 

河床間隙水域の生態系と食物連鎖

  河床間隙水域には多様な生物が存在するが、組成で見ると線形動物(線虫など)の生物量が一番多く、次いでカイアシ類(とくにハルパクチクス目;図2の間隙性カイアシ類があたる)が多い(Hicks & Coull 1983)。このカイアシ類は間隙環境に適応した種で、一般に呼ばれる浮遊性と区別するため、間隙性カイアシ類と呼んでいく。間隙性カイアシ類は間隙環境で成立する食物連鎖から、高次の栄養段階である子稚魚へ栄養を渡すという重要な位置にある(Kaczynski et al 1973、Sibert et al 1977、Hicks & Coull 1983)。また、1立法cmあたりの間隙中に10~100個体と高密度に生息していることから(Boxshall & Halsey 2004)その貢献力は高い。

 この間隙性カイアシ類はメイオファウナのひとつになるが、前述のとおり、他のメイオファウナと同様、デトリタスに発生するバイオフィルムが重要な食料源になっている(Gonzalez et al 2004)。また、間隙中の珪藻類も多く食べることが分かっている(Buffan-Duban et al 1996)。つまり、カイアシ類は草食性とデトリタス食性の2つの食性をもつということになる。

 食物連鎖とは、連鎖的に小さい生物から大きな生物へ栄養が受け渡される鎖のような関係とよく述べられるが、近年、この食物連鎖は単に小さい生物から大きな生物へと単純なものではないと分かっている。ひとつに微生物環(micro bial loop;詳細は 2015年11月5日の記事 )がある。これはバクテリア間で起きているもので、水中に溶け込んでいる有機炭素を分解、バクテリアが再利用というミクロな食物連鎖である(lower food webとも呼ばれる)。他にも海底や間隙中といった特定の環境内のみに成り立つ食物連鎖があり、従来に言われていた食物連鎖よりも複雑化している。したがって、プランクトンから小魚へ中型の魚、大型の魚とよく述べられる食物連鎖のことを古典食物連鎖(classic food chain)と俗に呼ばれるようになっている(Cnudde 2013)。ここでも古典食物連鎖を使っていく。

 間隙中で成立する食物連鎖は、河床へ沈殿した生物の死骸や糞といった懸濁物や植物プランクトンからはじまる。これらはデトリタスとして間隙中へ取り込まれるが、バクテリアによって分解される。これによってバイオフィルムの形成や水中へ有機炭素が溶けこむ(以降、DOC(dissolved organic carbon);溶存有機炭素)。このDOCはマイクロファウナ(鞭毛虫や繊毛虫)やメイオファウナ(とくに間隙性カイアシ類)によって摂餌される。実は、バクテリアとメイオファウナがつながることは容易なものではなく、普段はそれぞれが確立されている。これが繋がった要因として、バクテリアバイオフィルムを形成することがあげられ、これによってエネルギー流動(バクテリアのエネルギーが容易に高次へ渡されること)を効率化していると言われる(Schmit et al 1998)。間隙カイアシ類は他にも珪藻を含めるマイクロファウナも摂餌する(Buffan-Duban et al 1996)。ここまでが間隙食物連鎖である。そして、間隙性カイアシ類は子稚魚に食べられ、子稚魚からはじまる古典食物連鎖へつながる(図3)。すなわち、間隙食物連鎖は閉鎖的な栄養循環であったが、間隙性カイアシ類の存在によって、容易に古典食物連鎖へリンクし、間隙性カイアシ類が重要な位置づけと言えるというわけである。

 

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 図3.間隙食物連鎖の構造と他の食物連鎖へのつながり

 

河床間隙水域の保全

 河床間隙水域について、その仕組みや意義を理解し、河床間隙水域を取り巻く生態系の重要性について知ってもらえたと思う。その他にも無脊椎動物の産卵場として、卵や蛹、休眠個体を保護し安定した環境を与え、順調な生産をおこなえるという役割もあり(Boulton et al 1998)、河床に産卵するサケなどの魚類についても同様に言える(Coble 1961)。また、洪水や捕食圧、干ばつ、表流水の水質悪化などの避難場としても機能する(Boulton 1993、Dole-Oliver M-J et al 1997)。述べていくと切りがないほど、河床間隙水域の意義や重要性は無数にある。しかしながら、近年の都市開発によって、河床間隙水域は破壊されつつある。河川開発(堤防や河川脇の開拓など)による減少や、都市からの排水中にある微細な粒子による間隙の目詰りなど、影響は多い(Boulton et al 1998)。このようなものは、河床間隙水域の環境を悪化し、河床間隙生物は住めなくなってしまう。すなわち、上記に上げた河床間隙水域の意義や重要性で上げた一例が妨げることになり、その生態系は崩れてしまうというわけである(種の衰退や絶滅も含む)。今後は河床間隙水域の保全を考えていくことも取り巻く生態系を考えていく上で必要と言える。

 

 

 

文献

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ガン治療で注目されている褐藻類フコイダンについて-生理学的特性-

 生き物は生きているうちは腐らないが、死ぬとやがて腐ってしまう。当たり前ではあるが、なぜ生きているうちは腐らないのか少し考えてみよう。腐るおおもとの原因は菌や細菌である。これらが体内に侵入し、体を構成する筋肉や臓器、タンパク質や糖類を分解することで体を支持することができず腐ってしまうというわけである。しかし、体には白血球をはじめとする免疫系が備わっているため、体内に侵入した菌や細菌などの病原体を排除する。生きている間は免疫系は働いているため腐ることはないが、死ぬと免疫系を制御することができず停止し、排除されなくなった菌や細菌が体を腐らせてしまうのだ。動物では白血球、とくにリンパ球や単球といった免疫細胞が免疫系をになっている。植物の場合、このような免疫細胞は持っておらず、代わりに、抗菌作用をもつ低分子の化学化合物や多糖類、タンパク質、酵素が免疫系を担っている。

 

 海藻類は抗菌作用の他に、ときに寄生虫対策もあり、テルペン類(Kurata et al 1996)やポリフェノール類をもつことがある。とくにジテルペン類は寄生虫の付着阻害物質としても働く(Schmitt et al 1995)。このような植物が他の生物へ影響をあたえることを「アレロパシー(他感作用)現象」と呼ばれている。海藻類アミジグサはその例で、全く寄生虫がいない。しかし、ある種だけが寄生虫対策に微動だしないものがいる。それが葉上性カイアシ類、Dactylopusioides sp.である。これについては以前に記事にしているので興味があったら見ていただきたい。 

 

 海藻が干上がるなどのストレスによって腐ると硫黄のような悪臭が放たれるが、抗菌作用をもっていた硫化有機化合物が細菌に分解されたことで放たれる。あるときには、周囲の海藻を一掃してしまうこともある。この硫化有機化合物には様々な物質があるが、代表的なもので「フコイダン」がある。

 

フコイダンとヘパリン

 フコイダンは、1913年にKilling(1913)によって褐藻類から単離された硫化多糖類で、1948年にVasseur(1948)によってウニの卵からも単離された。「フコイダン」という名は植物由来に限定して呼ばれるもので、「フカン」が化学的な名称となる。今回では、使い分けず「フコイダン」と呼んでいくので念頭に入れていただきたい。

 動物からもフコイダンが見つかったというわけだが、実は人からも似た構造が存在する。それは「ヘパリン」である。ヘパリンとは主に抗血液凝固作用として知られており、免疫系で働いている。そして、ヘパリンも硫化多糖類であり、構造的にフコイダンと高い相同性がある。ただし、ヘパリンよりも作用が強力(Mauray et al 1998)であったりと機能的には増強されている場合が多い。

 

免疫としてのフコイダン

 最近、フコイダンが注目されてきているのは免疫に対して有効であることだと思える。しかし、その歴史は古く、60年前にさかのぼる。おたふく風邪やインフルエンザ、ヘルペスなどのウィルスに対して増殖抑制が確認されたのは1958年で(Gerber et al 1958)、HIVの感染を抑制することは1987年に確認されている(Nakashima 1987)。他にも抗炎症作用や寄生虫の排除も知られている(Berteau & Mulloy 2003)。なんと面白いことに、フコイダンはヘルパーT細胞(CD4+)を活性化し、病原体を排除させるらしい(Nakashima et al 1989)。近年ではガンにも有効であることが分かってきており、ガン細胞を選択的に死滅させることが解明されている(Zhang et al 2011)。

 環境中でもフコイダンは働いているようで、海藻が多く覆い茂っている海域では、そこに生息する生物中で検出される細菌が、そうでない海域と比べて半分以下になるという(Lamb et al 2017)。食物連鎖で、フコイダンが機能していると考えられる。

 細菌もフコイダンに負けじと進化したものもいて、フコイダンを分解する酵素、フコイダナーゼをもつものもいる(Berteau & Mulloy 2003)。このフコイダン分解酵素だが、軟体動物にも見つかっており、他の後生動物からは見つかっていない。しかしながら、その役割は良く分かっていない。

 

精子と卵の認識機能

 前述のとおり、ウニの卵からもフコイダンが単離されているが、このフコイダンは卵と精子の受精と関係している。フコイダンはウニの卵、卵を取り巻くゼリー質中に存在していることが分かっている(Vasseur 1948)。さらに種ごとでフコイダンの構造がわずかに違い、同一種で2種類のフコイダンを持つことはあるが、ふつうは1種類という。ウニの精子の先体にはフコイダンの種類特異的な受容体が備わっており、決まった構造を持つフコイダンにしか受容しない(Vacquier & Moy 1997)。受容すると先体がゼリー質を溶かし進み卵と融合する、先体反応が起きる(Hirohashi & Vacquier 2002)。これによって受精するという訳である。逆に違う種類のフコイダンだと先体にある受容体と結合できず、先体反応が誘発されず受精はできない。すなわち、フコイダンは種を認識し、識別する機能を持つという事といえる。海洋における受精は海の流れによって精子は漂っている状態になる。もし、ちがう種と受精してしまうと遺伝子的な問題で子孫を作ることはできない。したがってこのような認識機能をもったと考えられる(ウニに限らずほとんどの生物で認識機能はある)。

 

 

 

文献

Hirohashi, N. & Vacquier V.D. 2002. High molecular mass egg fucose sulfate polymer is required for opening both Ca2+ channels involved in triggering the sea urchin sperm acrosome reaction. J. Biol. Chem. 277: 1182-1189.

Killing, H. 1913. Zur biochemie der Meersalgen. Z. Physiol. Chem. 83: 171-197.

Kurata, K., Taniguchi, K. & Suzuki, M. 1996. Cyclozonarone a sesquiterpene-substituted benzoquinone derivative from the brown algae Dictyopterisundulata. Phytochemistry 41: 749-752.

Lamb, J. B., van de Water, J. A. J. M., Bourne, D. G., Altier C. Hein, M. Y., Fiorenza, E. A., Jompa, J. & Harvell, C. D. 2017. Seagrass ecosystems reduce exposure to bacterial pathogens of humans, fishes, and invertebrates. Science 355: 731-733.

Mauray, S., Raucourt, E., Talbot, J. C., Dachary-Prigent, J., Jozefowicz, M. & Fischer, A. M. 1998. Mechanism of factor IXa inhibition by antithrombin in the presence of unfractionated and low molecular weight heparins and fucoidan. Biochim. Biophys. Acta. 1387: 184-194.

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Zhang, Z., Teruya, K., Eto, H. & Shirahata, S. 2011. Fucoidan extract induces apoptosis in MCF-7 cells via a mechanism involving the ROS-dependent JNK activaiton and mitochondria-mediated pathways. PLos ONE 6(11): e27441.

カイアシ類の脂質が生態系を地球を救う

 カイアシ類は海洋プランクトンで微小な甲殻類で、海洋生態系において重要な働きをしており、カイアシ類なしでは海洋生態系は成り立たないほどである。カイアシ類は深海、冷たい海域のほど大型となる傾向があり、さらに脂質を蓄える油球(oil sac)を形成する(写真1)。もう1つの特徴に年の半分を深海で眠る、休眠をおこなう。そのため、微小動物では長い2年以上の寿命をもつ種も存在する(休眠については2015年12月25日の記事を参照)。

 

カイアシ類が地球温暖化を抑える

  ところで油球だが、体脂肪は60%以上にもおよび生物ではありえない比率になる。言ってしまえば、脂肪の塊になる。この脂質のおかげで、魚類などの捕食者へ多くのエネルギーを受け渡すことが可能で、イワシやタラ、サンマなどの溢れ出るほどの脂はカイアシ類由来とされている。さらに、油球を蓄えたカイアシ類は深海へ潜り、休眠をおこなうことは、深海独自の食物連鎖への介入、死亡したカイアシ類の蓄積で、有機炭素、すなわち植物プランクトン光合成によって二酸化炭素が、深海へ貯蔵されるということを意味している。ある試算では、北太平洋で毎年5.9億トンの二酸化炭素が深海へ貯蔵されていると推測されており、地球温暖化を抑えることに貢献していると考えられている(朝日新聞 2006年6月13日14版)。

 

カイアシ類の脂質の意義

 多くの魚類はDHAと呼ばれる不飽和脂肪酸をもつことで有名である。DHAを使ったサプリメントなども市場に流れている。しかし、このDHAは魚類がつくっているわけではない。藻類はDHAを作ることが知られているが、DHAをつくらない種がだんとつに多い。そこで、DHAをつくらない藻類とカイアシ類の関わりでDHAを作り出していると現在は考えられている。藻類の多くは炭素量18程度のトルエン酸とよばれる脂質を作る。これをカイアシ類が食べ、体内でトルエン酸を延長、不飽和化し炭素量20以上のDHAを作り出している。しかしながら、これは推測であって実際にカイアシ類が脂質の変換能があるかは確かめられていない。ただし、カイアシ類はDHAを豊富に持っていることは事実であり、食物連鎖によって魚類などに受け継がれていると考えられている。

 

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写真1.油球を蓄えるカイアシ類 ;©S.Kwasniewski 許可を得て転載

 

 カイアシ類の脂質分子生物学

  ここからは少し小難しい内容になる。カイアシ類がもつ脂質を分子生物学の観点で述べていく。

 カイアシ類がもつ脂質はワックスエステル、トリグリセリド、脂肪酸、ステロールなどがある(Kotani 2006)。ワックスエステルとトリグリセリドが主流となる。体長によるが1個体で1mgの脂質を持ち、栄養状態や成長段階でこの2つの脂質の組成が変わるという(Dohman 1989)。実はこの2つの脂質の組成は大まかに種類によって決まっており、例えば親潮に生息するNeocalanus属やMetridia属はワックスエステルを主成分とし、Eucalanus属やAcartia属はトリグリセリドを主成分にする。また、ワックスエステルとトリグリセリドでカイアシ類体内の所在が異なり、ワックスエステルは油球内、トリグリセリドは散在的にある。また、面白いことに休眠するカイアシ類がもつ脂質はワックスエステルで、トリグリセリドを主成分とするカイアシ類は休眠しないことが分かっている(Fulton 1973)。食糧不足や生殖に脂質をよく使用することが知られているが(Lee 1971)、トリグリセリドがその役割があるのかもしれない。

 カイアシ類種によってもつ脂質の種類が違うことだが、これは捕食者の脂質の組成にも左右されることが分かっている。たとえば、ヨコエソやハダカイワシといった魚類がもつ脂質にはワックスエステルが多く、これは深海で休眠するカイアシ類、つまりワックスエステルをよく保有するカイアシ類を食べていることに起因すると考えられている。

 不思議な事にワックスエステルには2種類が存在し、Neocalanus flemingeriとMetridia okhotensisのみが2種類のワックスエステルを持っている(Saito 2000)。しかし、この2種類がどのような機能を持っているかは分かっていない。また、太平洋と大西洋で脂質の分子量が異なり、両者で脂質代謝が違うと考えられるが、なぜ違うのかは憶測の域から超えていない。

 

 

文献

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