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coccoli’s blog

理科とくに生物に関する記事を書いてます。

ガン治療で注目されている褐藻類フコイダンについて-生理学的特性-

 生き物は生きているうちは腐らないが、死ぬとやがて腐ってしまう。当たり前ではあるが、なぜ生きているうちは腐らないのか少し考えてみよう。腐るおおもとの原因は菌や細菌である。これらが体内に侵入し、体を構成する筋肉や臓器、タンパク質や糖類を分解することで体を支持することができず腐ってしまうというわけである。しかし、体には白血球をはじめとする免疫系が備わっているため、体内に侵入した菌や細菌などの病原体を排除する。生きている間は免疫系は働いているため腐ることはないが、死ぬと免疫系を制御することができず停止し、排除されなくなった菌や細菌が体を腐らせてしまうのだ。動物では白血球、とくにリンパ球や単球といった免疫細胞が免疫系をになっている。植物の場合、このような免疫細胞は持っておらず、代わりに、抗菌作用をもつ低分子の化学化合物や多糖類、タンパク質、酵素が免疫系を担っている。

 

 海藻類は抗菌作用の他に、ときに寄生虫対策もあり、テルペン類(Kurata et al 1996)やポリフェノール類をもつことがある。とくにジテルペン類は寄生虫の付着阻害物質としても働く(Schmitt et al 1995)。このような植物が他の生物へ影響をあたえることを「アレロパシー(他感作用)現象」と呼ばれている。海藻類アミジグサはその例で、全く寄生虫がいない。しかし、ある種だけが寄生虫対策に微動だしないものがいる。それが葉上性カイアシ類、Dactylopusioides sp.である。これについては以前に記事にしているので興味があったら見ていただきたい。 

 

 海藻が干上がるなどのストレスによって腐ると硫黄のような悪臭が放たれるが、抗菌作用をもっていた硫化有機化合物が細菌に分解されたことで放たれる。あるときには、周囲の海藻を一掃してしまうこともある。この硫化有機化合物には様々な物質があるが、代表的なもので「フコイダン」がある。

 

フコイダンとヘパリン

 フコイダンは、1913年にKilling(1913)によって褐藻類から単離された硫化多糖類で、1948年にVasseur(1948)によってウニの卵からも単離された。「フコイダン」という名は植物由来に限定して呼ばれるもので、「フカン」が化学的な名称となる。今回では、使い分けず「フコイダン」と呼んでいくので念頭に入れていただきたい。

 動物からもフコイダンが見つかったというわけだが、実は人からも似た構造が存在する。それは「ヘパリン」である。ヘパリンとは主に抗血液凝固作用として知られており、免疫系で働いている。そして、ヘパリンも硫化多糖類であり、構造的にフコイダンと高い相同性がある。ただし、ヘパリンよりも作用が強力(Mauray et al 1998)であったりと機能的には増強されている場合が多い。

 

免疫としてのフコイダン

 最近、フコイダンが注目されてきているのは免疫に対して有効であることだと思える。しかし、その歴史は古く、60年前にさかのぼる。おたふく風邪やインフルエンザ、ヘルペスなどのウィルスに対して増殖抑制が確認されたのは1958年で(Gerber et al 1958)、HIVの感染を抑制することは1987年に確認されている(Nakashima 1987)。他にも抗炎症作用や寄生虫の排除も知られている(Berteau & Mulloy 2003)。なんと面白いことに、フコイダンはヘルパーT細胞(CD4+)を活性化し、病原体を排除させるらしい(Nakashima et al 1989)。近年ではガンにも有効であることが分かってきており、ガン細胞を選択的に死滅させることが解明されている(Zhang et al 2011)。

 環境中でもフコイダンは働いているようで、海藻が多く覆い茂っている海域では、そこに生息する生物中で検出される細菌が、そうでない海域と比べて半分以下になるという(Lamb et al 2017)。食物連鎖で、フコイダンが機能していると考えられる。

 細菌もフコイダンに負けじと進化したものもいて、フコイダンを分解する酵素、フコイダナーゼをもつものもいる(Berteau & Mulloy 2003)。このフコイダン分解酵素だが、軟体動物にも見つかっており、他の後生動物からは見つかっていない。しかしながら、その役割は良く分かっていない。

 

精子と卵の認識機能

 前述のとおり、ウニの卵からもフコイダンが単離されているが、このフコイダンは卵と精子の受精と関係している。フコイダンはウニの卵、卵を取り巻くゼリー質中に存在していることが分かっている(Vasseur 1948)。さらに種ごとでフコイダンの構造がわずかに違い、同一種で2種類のフコイダンを持つことはあるが、ふつうは1種類という。ウニの精子の先体にはフコイダンの種類特異的な受容体が備わっており、決まった構造を持つフコイダンにしか受容しない(Vacquier & Moy 1997)。受容すると先体がゼリー質を溶かし進み卵と融合する、先体反応が起きる(Hirohashi & Vacquier 2002)。これによって受精するという訳である。逆に違う種類のフコイダンだと先体にある受容体と結合できず、先体反応が誘発されず受精はできない。すなわち、フコイダンは種を認識し、識別する機能を持つという事といえる。海洋における受精は海の流れによって精子は漂っている状態になる。もし、ちがう種と受精してしまうと遺伝子的な問題で子孫を作ることはできない。したがってこのような認識機能をもったと考えられる(ウニに限らずほとんどの生物で認識機能はある)。

 

 

 

文献

Hirohashi, N. & Vacquier V.D. 2002. High molecular mass egg fucose sulfate polymer is required for opening both Ca2+ channels involved in triggering the sea urchin sperm acrosome reaction. J. Biol. Chem. 277: 1182-1189.

Killing, H. 1913. Zur biochemie der Meersalgen. Z. Physiol. Chem. 83: 171-197.

Kurata, K., Taniguchi, K. & Suzuki, M. 1996. Cyclozonarone a sesquiterpene-substituted benzoquinone derivative from the brown algae Dictyopterisundulata. Phytochemistry 41: 749-752.

Lamb, J. B., van de Water, J. A. J. M., Bourne, D. G., Altier C. Hein, M. Y., Fiorenza, E. A., Jompa, J. & Harvell, C. D. 2017. Seagrass ecosystems reduce exposure to bacterial pathogens of humans, fishes, and invertebrates. Science 355: 731-733.

Mauray, S., Raucourt, E., Talbot, J. C., Dachary-Prigent, J., Jozefowicz, M. & Fischer, A. M. 1998. Mechanism of factor IXa inhibition by antithrombin in the presence of unfractionated and low molecular weight heparins and fucoidan. Biochim. Biophys. Acta. 1387: 184-194.

Nakashima, H., Kido, Y., Kobayashi, N., Motoki, Y., Neushul, M. & Yamamoto, N. 1987. Antirerrovial activity in a marine red alga: reverse transcriptase inhibition by an aqueous extract of Schizymenia pacifica. J. Cancer. Res. Clin. Oncol. 113: 413-416.

Nakashima, H., Yoshida, O., Baba, M., Clerq, E. & Yamamoto, N. 1989. Anti-HIV activity of dextran sulfate as determined under different experimental conditions. Antiviral Res. 11: 233-246.

Berteau, O. & Mulloy, B. 2003. Sulfated fucans, fresh perspectives: structures, function, and biological properties of sulfated fucans and overview of enzymes active toward this class of polysaccharide. Glycobiology 13: 29R-40R.

Schmitt, T. M., Hay, M. E. & Lindguist, N. 1995. Constraints on chemically mediated coevolution: multiple function for seaweed secondary metabolites. Ecology 76: 107-123.

Vasseur, E. 1948. Chemical studies on the jelly coat of the sea-urchin egg. Acta. Chem. Scand. 2: 900-913.

Vacquier, V. D. & Moy, G. W. 1997. The fucose sulfate polymer of egg jelly binds to sperm REJ and is the inducer of the sea urchin sperm acrosome reaction. Dev. Biol. 192:0125-135.

Zhang, Z., Teruya, K., Eto, H. & Shirahata, S. 2011. Fucoidan extract induces apoptosis in MCF-7 cells via a mechanism involving the ROS-dependent JNK activaiton and mitochondria-mediated pathways. PLos ONE 6(11): e27441.

カイアシ類の脂質が生態系を地球を救う

 カイアシ類は海洋プランクトンで微小な甲殻類で、海洋生態系において重要な働きをしており、カイアシ類なしでは海洋生態系は成り立たないほどである。カイアシ類は深海、冷たい海域のほど大型となる傾向があり、さらに脂質を蓄える油球(oil sac)を形成する(写真1)。もう1つの特徴に年の半分を深海で眠る、休眠をおこなう。そのため、微小動物では長い2年以上の寿命をもつ種も存在する(休眠については2015年12月25日の記事を参照)。

 

カイアシ類が地球温暖化を抑える

  ところで油球だが、体脂肪は60%以上にもおよび生物ではありえない比率になる。言ってしまえば、脂肪の塊になる。この脂質のおかげで、魚類などの捕食者へ多くのエネルギーを受け渡すことが可能で、イワシやタラ、サンマなどの溢れ出るほどの脂はカイアシ類由来とされている。さらに、油球を蓄えたカイアシ類は深海へ潜り、休眠をおこなうことは、深海独自の食物連鎖への介入、死亡したカイアシ類の蓄積で、有機炭素、すなわち植物プランクトン光合成によって二酸化炭素が、深海へ貯蔵されるということを意味している。ある試算では、北太平洋で毎年5.9億トンの二酸化炭素が深海へ貯蔵されていると推測されており、地球温暖化を抑えることに貢献していると考えられている(朝日新聞 2006年6月13日14版)。

 

カイアシ類の脂質の意義

 多くの魚類はDHAと呼ばれる不飽和脂肪酸をもつことで有名である。DHAを使ったサプリメントなども市場に流れている。しかし、このDHAは魚類がつくっているわけではない。藻類はDHAを作ることが知られているが、DHAをつくらない種がだんとつに多い。そこで、DHAをつくらない藻類とカイアシ類の関わりでDHAを作り出していると現在は考えられている。藻類の多くは炭素量18程度のトルエン酸とよばれる脂質を作る。これをカイアシ類が食べ、体内でトルエン酸を延長、不飽和化し炭素量20以上のDHAを作り出している。しかしながら、これは推測であって実際にカイアシ類が脂質の変換能があるかは確かめられていない。ただし、カイアシ類はDHAを豊富に持っていることは事実であり、食物連鎖によって魚類などに受け継がれていると考えられている。

 

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写真1.油球を蓄えるカイアシ類 ;©S.Kwasniewski 許可を得て転載

 

 カイアシ類の脂質分子生物学

  ここからは少し小難しい内容になる。カイアシ類がもつ脂質を分子生物学の観点で述べていく。

 カイアシ類がもつ脂質はワックスエステル、トリグリセリド、脂肪酸、ステロールなどがある(Kotani 2006)。ワックスエステルとトリグリセリドが主流となる。体長によるが1個体で1mgの脂質を持ち、栄養状態や成長段階でこの2つの脂質の組成が変わるという(Dohman 1989)。実はこの2つの脂質の組成は大まかに種類によって決まっており、例えば親潮に生息するNeocalanus属やMetridia属はワックスエステルを主成分とし、Eucalanus属やAcartia属はトリグリセリドを主成分にする。また、ワックスエステルとトリグリセリドでカイアシ類体内の所在が異なり、ワックスエステルは油球内、トリグリセリドは散在的にある。また、面白いことに休眠するカイアシ類がもつ脂質はワックスエステルで、トリグリセリドを主成分とするカイアシ類は休眠しないことが分かっている(Fulton 1973)。食糧不足や生殖に脂質をよく使用することが知られているが(Lee 1971)、トリグリセリドがその役割があるのかもしれない。

 カイアシ類種によってもつ脂質の種類が違うことだが、これは捕食者の脂質の組成にも左右されることが分かっている。たとえば、ヨコエソやハダカイワシといった魚類がもつ脂質にはワックスエステルが多く、これは深海で休眠するカイアシ類、つまりワックスエステルをよく保有するカイアシ類を食べていることに起因すると考えられている。

 不思議な事にワックスエステルには2種類が存在し、Neocalanus flemingeriとMetridia okhotensisのみが2種類のワックスエステルを持っている(Saito 2000)。しかし、この2種類がどのような機能を持っているかは分かっていない。また、太平洋と大西洋で脂質の分子量が異なり、両者で脂質代謝が違うと考えられるが、なぜ違うのかは憶測の域から超えていない。

 

 

文献

斎藤洋昭. 1996. 解説 海洋生物とn-3高度不飽和脂肪酸. 化学と生物 34 (2) : 107-113.

Dohman M, Bradford JM, Jillett JB. 1989. Seasonal growth and lipid storage of the circumglobal, subantarctic copepod Neocalanus tonsus (Brady). Deep-Sea Res. 3 : 4-10.

Fulton J. 1973. Some aspects of life history of Calanus plumchrus in the Strait of Georgia. J. Fish Res. Bro. Canada 30 : 811-815.

Kotani Y. 2006. Lipid content and composition of dominant copepods in the Oyashio waters analyzed by the thin layer chromatography flame ionization detection method. Plankton Benthos Res. 1 (2) : 85-90.

Lee RF, Hirota J, Barnett AM. 1971. Distribution and importance of wax esters in the marine copepods and other zooplankton. Deep-Sea Res. 18 : 1147-1165.

Saito H, Kotani Y. 2000. Lipid of four boreal species of calanoid copepods : origin of monoene fats of marine animals at higher tropic levels in the grazing food chain in the subarctic ocean ecosystem. Mar. Chem. 71 : 69-82.

高尾山から海洋プランクトンを発見 土壌生活へ進化したカイアシ類

 カイアシ類とは簡単に言うと、海洋プランクトンとして生活しているものが多く、甲殻類に属し、海洋生態系の要になっている微小動物である(2014年10月2日の記事を参照)。カイアシ類についての文献を読み進めていると興味深いものがあった。

 

土壌動物学―分類・生態・環境との関係を中心に (1973年)

土壌動物学―分類・生態・環境との関係を中心に (1973年)

  • 作者: 青木淳
  • 出版社/メーカー: 北隆館
  • 発売日: 1973
 

これによると土壌にもカイアシ類が見つかるという。さらに下記の雑誌論文、

 

皇居の土壌中からも発見例がある。

 

土壌中に生息する陸生カイアシ類については以前の記事で紹介しているので興味がある方はぜひ参照していただきたい。


 

 そしてこの目で陸生カイアシ類を見たいと思い、2016年8月15日に東京都八王子市に位置する高尾山へ向かった。

 採集したのは土壌または落葉堆積物で、その直上に被さる落葉ごと500mL程度。採集地点はその場でGPSで測位した。その位置は以下のとおり。

A地点 : 35°37′50″519 N  139°15′13″680 E

B地点 : 35°37′44″327 N  139°15′53″928 E

C地点 : 35°37′40″619 N  139°14′47″615 E

D地点 : 35°37′38″279 N  139°15′03″240 E

E地点 : 35°15′44″280 N  139°15′07″919 E

F地点 : 35°37′38″128 N  139°15′36″032 E

G地点 :  35°37′31″800 N  139°14′32″640 E

H地点 :  35°37′40″800 N  139°15′42″839 E

I地点   :  35°37′43″931 N  139°14′50″243 E

 いづれの地点も尾根筋から5m程下ったところとなる。

 採集した土壌から生き物を見つけ出す方法だが、一般にはツルグレン装置またはベールマン装置が用いられる。両者ともに同じような装置になるが目的は違う。前者は乾燥を避けるために水がある方へ生き物が移動する習性を用いたもの、後者は光を嫌うものが暗い方へ生き物が移動する習性を用いたものである。しかし、陸生カイアシ類は両者ともに適正な方法ではなく上手く陸生カイアシ類を見つけ出すことは難しい。そこで、以下の方法で陸生カイアシ類を取り出す。

 小麦粉を篩いにかけるものとして良く汎用されている1~2mm目のステンレス製ふるいに土壌を入れ、10L程度の水で洗った。直下にはバケツを置き、水が漏れ出さないようにした。バケツに溜まった水を57μmメッシュのナイロン製プランクトンネットに流した。こうして陸生カイアシ類を取り出すわけである。もとの500mL容器に入れ、水400mLで希釈した。

 そして検鏡。今回の密度では5分程度で陸生カイアシ類を発見できた。ただし、今回で採集したすべての地点で発見したわけではなく、A地点~H地点、計8地点のうち、A、B、C、I地点の4地点だった。個体数は10~50ind/10平方cm。

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 また興味深いことに陸生のカイミジンコも発見できている(下写真)。陸生カイミジンコについては外国の文献は見つかるが、日本の文献は私のところでは皆無という珍しいものである。

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 他には分類群が不明の生物も発見している(下写真)。マメザトウムシの卵かという意見もあるが、もしご存知であれば連絡いただきたい。連絡先はページ下に表示してある。(大きさ0.3mm)

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 陸生カイミジンコだが、実は飼育が順調に進んでおり、多くの個体を産出している。シャーレ中に土や落葉を入れるといういたって簡単な飼育となっている。交尾の個体の撮影も成功している(下写真)。文献上、たぶん私が初めて飼育に成功している。交尾個体は雌尾に雄が触覚で捕まえており、カイアシ類ソコミジンコ目に属する者の典型的な交尾行動である。ソコミジンコに属することから、陸生カイアシ類はとくに陸生ソコミジンコとも呼ばれる。

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