coccoli’s blog

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ウミホタルに寄生するウミホタルガクレの珍しい生活史

  ウミホタルは馴染みある生物だと思う。海洋沿岸部に生息する発光性の甲殻類微小動物である。そして日本特産種でもある。しかし、生態については身近な生き物であるもかかわらずよく分かっていない。最近になり、地域依存的な分布があると判明した。つまり、地域ごとに形態的差がある隔離された集落が形成しているということである。これには地域ごとに異なる発光パターン等の相違があると考えられている。そんなウミホタルには産卵数を変動させる厄介者がいる。それはウミホタルの卵を食べる寄生虫、ウミホタルガクレである。

 

ウミホタルガクレ Onisocryptus ovalis

 ウミホタルガクレは等脚目(ワラジムシ等)、ヤドリムシ亜目に属する甲殻類である。さらに、ヤドリムシ亜目はボピルス族とクリプトニスクス族に分けられるが、後者に属する。学名Onisocryptus ovalisであるが、シノニム名(異名同種)でCyproniscus ovalisという表記もある。だが、両者とも全く同じウミホタルガクレのことである。そして、甲殻類としては珍しい雄性先熟型の性転換(雄から雌へ性転換)を示す、雌雄同体である。

 

生活史

 ウミホタルガクレが属するヤドリムシ亜目の生物一般には、エピカリディア幼生として雌の育房から放出され、中間宿主となるカイアシ類に寄生する(写真1、2)。そこでミクロニスクス幼生まで成長すると、クリプトニスクスとなって海洋を遊泳し、終宿主へ寄生し成体となる雄として繁殖後、性転換を起こし、雌となる。再び、繁殖をおこなって生涯を終える。ウミホタルガクレの場合、中間宿主は分かっておらず、生態も終宿主のウミホタル上でしか分かっていない。雌は上皮内に至るまで体のほとんどが卵巣という大規模形態変化であるため、一回の産卵で生涯を終える。

 産卵数は200~1500個と変動が広い。これは、ウミホタルの卵の数に比例しているためで、季節によってウミホタルの有無があるからである。したがって、季節ごとでウミホタルガクレの個体数の変動は顕著である。

 年に3~4世代あるが、越冬するのは雌のみで、雄はそのまま死ぬ。越冬後、雌は産卵するが、越冬前にもらった精子を貯蔵する仕組みがあると考えられている。春はじめの一斉な産卵により、ウミホタルガクレのほとんどが雄になる。このあと、性転換により雌が増え始めて、ウミホタルが極大個体数となる6月には、ウミホタルガクレのほとんどが雌になる。

 

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(写真1、2;カイアシ類に寄生するミクロニスクス幼生「明石・神戸の虫 ときどきプランクトン」より許可を得て転載)

 

 

寄生と性転換

 ウミホタルガクレはウミホタルに寄生後、雄として雌と交尾して繁殖する。繁殖後、雄はウミホタルの卵を食べることで性転換に要するエネルギーを得て、雌へ性転換する。雌への性転換では、体は巨大化してほとんどが卵巣である(図1)。このとき全く運動性はなく、抱卵しているだけの存在である。

 

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(図1.ウミホタルに寄生するウミホタルガクレ雌雄;参考文献より作図)

 

 寄生から性転換へ至るまで単純な流れのように思われるが、飼育実験によって複雑なプロセスをとっていることが分かった。雄は卵をもつ成熟したウミホタル雌に寄生する。ウミホタル雄や未成熟の雌には寄生しない。ウミホタルガクレ単独で寄生した場合、性転換はせず、2個体以上の雄がいないと性転換は起こさない。また、性転換を起こすのは、2個体以上のうち、1個体のみで、この1個体が産卵後に死すと、他の雄が性転換をおこす。寄生した雄の中から性転換するのは、他のボピルスの先に寄生した雄が性転換するのと異なる。ウミホタルガクレは、このようにして雌雄が確実に出会うための仕組みが成り立っていることが判明した。しかし、どういうふうに性転換をしているのかメカニズムについての知見は未だに無く、生態の多くが未知である。

  

 

 

参考

小江克典, 近江谷克裕(2003)日本沿岸に生息するウミホタルの発光意義と地域的多様性. 月刊海洋 35(9), 630-637.

岡本直子, 逸見泰久(2002)寄生性等脚類ウミホタルガクレOnisocryptus ovalisの繁殖戦略. 日本ベントス学会誌 57, 75-78.

松澤巨樹(1999)ウミホタルガクレの性転換. うみうし通信 26, 2-4.

椎野季雄(1964)動物系統分類学7(上):節足動物(1)総説・甲殻類. 中山書店. 東京. 215-217.

長沢和也(2004)フィールドの寄生虫学―水族寄生虫学の最前線. 東海大学出版会.

 

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