「アミダコ」イカ・タコ類でみられない生活、サルパに住むタコ

 アミダコ(Ocythoe tuberculata)とは軟体動物、頭足類でいわゆるタコである。外套膜は卵円形で肉厚。背面は平滑だが、腹面は凹凸を成し、漏斗は長大。腕長式(各腕を比較して不等号式等を用いた大きさの比を表す式)は1>4>2=3と、第1腕は外套膜長の58%、第3腕は37%となっている(久宗高 1987)。大きさは雌で外套膜長35cm、雄で3cm以下(Cardoso, F. 1998)と著しい性的二型を示す。また雄は嚢皮に包まれているという特徴がある(久宗高 1987)。三陸以南、温暖帯太平洋、大西洋、インド洋と(久宗高 1987)世界汎的で多くは熱帯域に分布する(Salman, A. 2012)。特に北半球に多く 、沿岸から外洋まで広く生息し表層性である(Ángela, M. 2008)。
 アミダコには多くの補食者が存在し代表的なものでメカジキ(Packard, A. 1994)やキハダマグロ、イルカ(Ángela, M. 2008)、サメ、マグロ、アザラシ(Salman, A. 2012)がある。これらの胃袋はアミダコで重鎮することもあってか、季節的消長も知られている(Ángela, M. 2008)。
 興味深いことに日本、新潟県沿岸において2004年〜2005年にかけてアミダコが34体と大量に漂着している(本間義治 2005)。軟体動物がこれ程に漂着することは前例がないという珍しい事例である。サルパの漂着がなくなったと同時にアミダコが漂着している。サルパとはホヤと同じ仲間でクラゲのような外観だが、そのサルパ減少による餌不足よってアミダコは漂着したかと考えられる(サルパとは;2016年6月15日の記事)。しかし、アミダコは仔魚を専食しておりカタクチイワシを好んでいる。そのためカタクチイワシ漁ではよくアミダコが水揚げされる。したがってサルパとはあまり関係はなさそうであり、アミダコの漂着については原因は分かっていない。本間は原因追求のため協力を呼びかけている(本間義治 2005)。
 アミダコには他のタコ類にはない特徴が多い。産卵数は10万〜20万と多く(Salman, A. 2012)、孵化から幼体の保育を体内でおこない、ある程度育ってから体外へ放出する(Naef, A. 1923)(一般のタコは岩場等に卵を産みつけて保護する)。また、頭足類で唯一浮袋を有し、空気の呼気、水面へ浮上して空気の吸気で浮力調節をおこなう (Packard, A. 1994) 。これらは雌の特徴だが、雄はサルパの中に入って住むという特徴もある(Okutani, T. 1986)。これらについては後に紹介する。

 

浮袋を有し漏斗ジェットで推進する
 浮袋や漏斗の形態や機能についてはPackardら(1994)がよく研究している。前述した通り、浮袋は頭足類の中で唯一アミダコのみが持つ器官である。この器官は発生的に貝殻の原基が由来になっているとされている。驚くことに、漏斗を3つ持つことである。1つは頭足類がもつ漏斗という器官だが、この両側、アミダコ側面にある漏斗は出水孔という新しいエレメントより形成されており、アミダコ特有の器官となる。これらの器官は雌にあり、雄にはない。
 Packardら(1994)はアミダコを採取し、3日間の室内飼育で詳細な観察をされている。腕は常に後方へ回しており、胴を抱くような姿になっている(図1)。外観的には卵形となっている。浮力調節は浮袋内への空気の出し入れでおこなっており、空気の補給には水面へ上がっておこなう。餌に対する反応は、前方にある餌生物に対して側部の触手を投げ飛ばして捕獲するという。漏斗は正中漏斗(頭足類がもつ漏斗器官)と左右漏斗(アミダコ特有の出水孔)で使い分けている。正中漏斗は水をジェット噴射し、強い推進力で泳ぐ。左右漏斗は瞬間的な出水で方向転換をおこなっている。また、180°回転ができるという。

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図1.普段のアミダコの姿(Rackard, A. 1994)

 

サルパ内に住む
 サルパ内に住んでいるアミダコはOkutani(1986)が発見し、報告をしている。雄は大型サルパのTethys vaginaの腔内に住んでいるところを確認し(図2)、他には雌の未成熟も住んでいると考えられる。しかし、雌にいたっては詳細な観察はされておらず、形態的に雌の未成熟と考えられているだけである。サルパ内に住んでいるアミダコに天敵が近づくとサルパ内から脱走し、隠れ場へ逃げ込むという。つまり、サルパに寄生することで知られている端脚類のように寄生しているわけではないと考えられている。しかし、何をしているのかは分かっておらず、単に外鞘を利用しているだけなのかと思われるが、生態に関しては全く分かっていない。

 

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図2.サルパ内に住むアミダコ(Okutani, T. 1986)

 

 

 

参考
Ángela, M. et al. (2008) JMBA2: 1-3.
Cardoso, F. et al. (1998) Revista Peruana de Biologia 5: 1-7.
本間義治. et al. (2005) ちりぼたん 36 (2): 53-56.
久宗高. (1987) 日本陸棚周辺の頭足類. 日本水産資源保護協会.
Naef, A. (1923) Monograph 35. 1 (2): 150-863.
Okutani, T. (1986) VENUS 45 (1): 67-69.
Packard, A. et al. (1994) Phil. Trans. R. Soc. Lond. B. 344: 261-275.
Salman, A. et al. (2012) Turkish J. Fish. Aqua. Sci. 12: 339-344.

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